ゴム動力 プラ子の日記  〜 第38回め〜  

 

平成16年

12月22日(水)  

(プロジェクトX風に読んでください)

1962年。青年はいつものように神戸港で大好きな船を眺めていた。そのとき大きな黒い貨物船の中に、真っ白な貨物船が入港してきた。「OREGON」だった。青年は息をのんだ。白鳥のようだった。

                               (前奏スタート!  ・・・       カゼノナカノス〜バルゥ〜〜・・・)


マリーナータイプの船体は、スピードが出るように設計されているため、船体は細く美しかった。いざ戦争となったとき、戦地への輸送船になるべくアメリカ政府が作った船だった。

青年はその美しい船体をみて模型にせずにいられなかった。早速英文でその船会社ステイツラインに手紙を書いた。「なにか資料を送って欲しい。」



数日後、驚くほどの量の設計図の青焼きと、細部にわたる写真が送られてきた。「有り難い・・・」 青年はその美しい船「OREGON」作りに没頭した。当然キットはなく、すべてが手作りだった。2隻作ったうち1隻は気に入らず壊した。

小さなちゃぶ台の上 全長190センチ 

約1年後、1/100の木製模型が出来上がり、嬉しくて写真を撮りまくった。そしてその何枚かをお礼の意味を込めて船会社に送った。


ある日、明石の丘の上の一軒家、その家のふもとに見慣れない大きなアメ車が停まった。道が狭くて家の前まで車が入れず、大柄な紳士はその細い道をひょこひょこ歩いて上ってきた。小さな家の、そのまた小さな間借りの6畳間、慣れない手つきで靴を脱ぎ、その紳士が座った。

ステイツラインの社長だった。

緊張して出迎えた青年と妻に、社長は言った。「この模型をぜひ譲って欲しい」 

その後、その模型は美術品扱い業者が梱包し、船長気付けで、アメリカのステイツライン本社のロビーに置かれるため、運ばれた。

運んだ船は貨物船「OREGON」だった

     「ここでエンディングだ!」   「ヘッドラぁ〜イ テールラぁ〜イ たびわぁ〜〜〜〜まだ〜おわらぁ〜ないぃ〜〜〜♪」



数年後、青年は妻と3歳の娘を連れ、静岡へ移り住んだ。どうしても入りたい会社があった。

そしてその後アメリカ出張の折り、ステイツラインを訪れ、その模型に感激の対面をした。


ステイツライン ロビー




月日は流れ、ステイツラインは倒産、模型も消えていた。片づけをしていた人に模型のことを尋ねると、もしかしたら、と言われた場所もあったが、そこへ行ってもその木製模型はなかった。


つい最近のこと、


プロジェクトXの横浜港に橋を架ける話の回想シーン、その古い写真の隅に一瞬写った貨物船の後ろ半分をみて、父が声をあげた。

「オレゴンだ!」



あのときの青年は現在66歳。まだまだ現役だ。

                                                             終