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ゴム動力プラ子の日記 〜第212
回〜  2013年 6月29日(土) ・・・の分だよ。 

 

特別な週も、もう週末になってしまいましたので、今日はまだ28日だけど、特別に明日の分として、

「5話」、そして、明後日の分の「6話」、続けて書いておきます。 あぁ、なんという大サービス。

 

では第5話、そして、第6話、続けてどうぞ〜。

 

=====

■キリ番■

 

第5話 「消えていく記憶」


「ねえ、もう溶けそう・・」
「キャラメル?」
「違う、ワタシ。」

ボクなんか、、、とっくに溶けている。

 

・・・・・どのぐらい時間が経ったんだろう。ボクは目が覚めたというより、意識を取り戻して、

恐る恐る目を開けた。開けっ放しだったカーテン、窓の外は丁度、日の出前の蒼い街が

広がっていた。なんて美しい蒼なんだ。

ボクはなんとか起き出してバスルームに向かったけれど、全身がひどく重く疲れていた。

とにかくお湯を入れながらバスタブに寝ころび、夕べのことを思い出そうとした。夢を

見ても忘れてしまうことが多いものだが、夕べの夢は妙にリアルだったという印象だけ

が残り、中身が思い出せない。 やはり、宴会で飲み過ぎたか。

 

バスルームでボンヤリ過ごしていたら思いのほか時間が過ぎていた。時計をみて会社

までの通勤時間を逆算、部屋に届いた日経新聞を斜めに読み、夕べの服を着た。夕べ

どうやって脱いだのかも思い出せないそのワイシャツは汗臭いはずなのに、ふんわり

甘い香りがした。キャラメルだ・・・。キャラメル???なんで?

 

朝食を取るために、レストランに降りた。礼儀正しいスタッフが庭に面した窓際の席に

案内してくれた。ビュッフェスタイルのホテルのレストランは、 パンの焼ける香りと

淹れ立ての珈琲の香りが満ちていて、静かな音楽がかかっている。外人客の英語が

飛び交う中、ボクはまず、フレッシュスクイーズのオレンジジュースを飲み干した。

 

「美味い!」

頭が冴えるごとに、夕べのリアルな感覚が消えていく。引き留めたいのにその感覚は

どんどんボクから逃げるように行ってしまう。しかしその感覚の正体はなんだったのか。

 

ホテルをチェックアウトして、駅に向かって歩き出したときにはもう頭も体もすっきり。

午後のプレゼンのことを考えていたら携帯が鳴った。田中からだった。

 

「もしもし〜 お〜〜い、おまえ、大丈夫か〜ぁ?」

「おう、おはよう、田中。 大丈夫ってなにが?」

「夕べの宴会の後、カラオケの途中で早く帰ったくせに珍しくミクシィの書き込みも

ないからさぁ、どっかで酔いつぶれてるんじゃないかって、みんなが心配してたぞ?」

「おかげさんで、酔いつぶれてホテルに泊まったさ。今から直接会社に出勤なんだ。」


「へ〜 珍しいなぁ。どこのホテルだよ。」

「思い出せないぐらい、カタカナの長い名前だった。あはははは」

そういいながら、とっさに胸ポケットを触ったが、なにも入ってはいなかった。

「酔っぱらいめ。あ!!女とか?! まさか、プラ子姐さんか!」

「違うにきまってんだろ〜〜〜!プラ姐はおまえと歌ってたじゃないか」

「なぁ、・・・田中、髪の長い女性来てなかった・・・か?」

少しだけ胸がちくりとした。

 

「なに夢みたいなこといってんだよ。いつものように女性はプラ子姐と、タテちゃんちのミチエちゃんと

カミりん、コシちゃんと、ララキさん、そういや、みんなショートカットだね。あとは男ばっかり!あのあと、

1人で妙な店にでも行ってキツネに化かされたんじゃねーか??ははははは」

確かに夕べの日本酒は効いた。ちょっと酔いすぎたかもしれない。第一、いたら二人して思い出せない

はずない。

 

毎日の忙しさに流されて、1か月ほどが経った。 都心のデパートでジオラマの展示会があったので、

田中と待ち合わせて冷やかしに出かけたときに、また出没していたプラ子姐が、ボクの顔を見て、

嬉しそうに笑いながら近づいてきた。今日は魔女笑いしないんだな。

 

「こんにちは〜先日はどうも〜。」

「こんにちは♪ キリ番ゲットのプレゼント、喜んでいただけました?」

「はい?もらったかなぁ?」

「ふっふっふ 特別大がかりな魔法を掛けてあげたのよ。大サービスで。たまには

ドキドキさせてあげようと思ってね。いつもなんとなく物足りなそうな顔してるからさ。」


「はぁ???」


「あははは だから、もうあげたのよ。アナタ、忘れちゃったよ。ほかのみんなにも

あげたのに忘れちゃったの。」


そういって今度は魔女顔でにやりと笑った。

「忘れた・・・?」

「でも、あげた証拠はあるのよ。」

う〜ん、ボクは思い出せない。

 

「な〜んちゃってね。ウソウソ。持ってきたわよ、キリ番プレゼント♪」

そういってプラ子姐が紫色の花柄のバッグの中をごそごそして、丸い小箱を出すと

ボクにくれた。

「これ、きっとすご〜く好きだと思うわ。溶けやすいから要冷蔵でお願いね」

開けてみると、中から出てきたのは生キャラメルだった。なんとも優しい、この甘い香り。

体の芯が妙な具合にキュンとした。

よこから田中に取られそうになって、ボクは大人げなく、それをポケットに隠した。

「けちっ! おまえ、けち!!ケチケチケチ!」

田中が騒ぐが、ケチで結構。なんとでも言ってくれ、という気分だった。

 

 

 

第6話  「夜のホームで」

 

あれから半年ほど過ぎ、終電を待つホームでボクはまたあの曲を口ずさんでいた。

 

「あ〜 だから今夜だけはぁ〜君を抱いていたい〜・・・ああ 明日の今頃は ボクは汽車の中〜」

汽車といえば、明後日は午後から大阪の門真に出張だ。でも、汽車じゃないか。

 

そうそう、ボクは今日の昼休み、またプラ子姐のキリ番を踏んだらしい。前回は生キャラメル、

今度は何をくれるんだろう、最近、みんな最初のころみたいにキリ番なんか気にしなくなってきて

るから小さなプレゼントが結構楽しみだったりする。

 

それにしてもさっきから向かいのホームのちょうど正面に居る髪の長い女性が、ずっとこちらを

見ている気がして、なんとなく落ち着かない。そのうえ、ボクがあちらを見ると、身振りで、なんか

アピールしてくる。ボクにだろうか? でも違ったら反応するのもなんだか恥ずかしいからな。

 

ホームの一番端ということもあり、周りにはあまり人がいないから、やっぱりボクか?

何となく見たことあるような顔だけれど、遠すぎて確信がもてない。ふとテレビのコマーシャルを

思い出した。 「金麦冷やして待ってるから〜〜〜」

・・・もちろん、そう言ってるわけでもないだろうが。目をこらすと、どうやら、(そのままちょっと

そこで待ってて!)と言いたいようでもある。

 

そこに、終電が滑り込んできた。  う〜ん、待っててと言われても。

終電のドアが開き、、、ドアが閉まった。

結局優柔不断なボクは、一歩も動けないまま、結果的に一人ホームに残ってしまった。

待とう、という意志が働いたわけでもなく、ただ、結局迷って動けなかっただけなのだけれど。

 

向かいのホームの彼女は、僕の姿を見て嬉しそうにこちらに手を振り、階段に向かって走り出した。

あぁ、よかった、ボクで合っていたみたいだ。そうなると、急にドキドキしてきた。でも、

彼女はだれだったかな? とにかくここで待ってみよう。彼女が階段を上ってくるまで、

きっと30秒もかからないだろう。誰もいないホームを熊のようにうろうろとしながら、

デジャブのような気分を感じるのだった。

 

彼女が息を切らせて階段を上ってきて長い前髪をかき上げた。きれいな人だなぁ〜っ

と、ボクは見とれた。でも知らない人だった。ボクにいったい何の用事が?

 

「とにかく、終電も行っちゃったし、外を歩きましょうか」


彼女の髪のいい香り。ボクにしては上出来な、夜の始まりだ。

 

おわり。

 

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