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ゴム動力プラ子の日記 〜第208
回〜  2013年 6月19日(水)

 

プラ子お誕生月の大サービス? 長年のご愛顧に応え、魔法使いプラ子短編空想小説シリーズ 〜キリ番〜

を6回シリーズでお贈りします。何年も前に書いたお話を手直ししました。長文ですが、少しだけお色気有りです。

純情な?モデラーの前に、美女現る。もちろん完全なるフィクションですから深読み禁止ですよ。

感想など、またお聞かせ下さい。

=====

■キリ番■

第1話 「やばいよ、ボク」

・・・あ〜 だから今夜だけは〜 キミを抱いていたい・・・

つけっぱなしのテレビから頻繁に流れるCMの歌、今夜も気づくとこのフレーズを口

ずさんでいた。場末の寿司屋の二階、古ぼけた座敷での宴会で、久しぶりに飲んだ

日 本酒が効いたのか、煙った部屋を抜け出したボクは、新鮮な空気を求めて廊下

の突き 当たりの柱にもたれ、いい気分で目を閉じていた。合同展の反省会にかこ

つけて親友 の田中が半ば強引に集めたモデラーのオフ会だったが、完成品を持っ

てきたメンバー も多く、それらを囲みながら会話は弾み、このところの仕事の疲れ

も忘れるぐらい、 愉快な気分だった。たぶん、思ったより時間が経っているんだろう、

窓からの夜風が なんとも冷たく心地いい。

 

「ね、キミってだれよ。ワタシ?」

 

宴も終わり頃、作例作りの徹夜明けで飲みつぶれている鈴木をゆっくりまたぎ、ネコ

のように廊下に出てきたのは、優子さんだった。この人も酔ってるのか。そうでな

きゃ、ボクのほうに優子さんから近づいてくることなんか考えられない。しかも、こん

な猫ポーズでなんてね。

 

優子さんはボクより1つ年上らしい。プラモデル歴はボクより長く、女性とは思えな

いほど(などと言ったらまたプラ子姐に怒られるが)大胆な汚しを施した三突を作っ

てきていた。こうしてモデラー同士の飲み会で同席するのは初めてで、いろいろ

気さ くに話もしたけれど、基本的にはその場の男子全員が優子さんに一目惚れ

したんじゃ ないかとボクは思った。それほど美しい人だ。しかもすごい作品を見せ

られてしま い、もうボクは頭が上がらないというか、未だコンテストでも受賞経験の

ないボクに はとってはやっぱり遠い人だという感じは否めなかった。

 

なのに、だ。

「そうだよ、キミだよ。 ・・・なんて言ったら抱かせてくれるの?」

考えるより先に、こんな言葉がさらりとボクの口から出てしまった。ボクが女性に

こんなことを言うなんて。・・・完全に飲み過ぎたな。

せっかくドラマみたいな台詞が言えたのにこの動揺・・・しかも心臓バクバクだ。

「・・・なぁ〜ん・・・ちゃって」

消え入りそうな声でそう続けると、ますます動悸が激しくなった。やっぱり高橋克典

のようにはいかないな・・・。

「なぁんだ、ワタシじゃないの? がっかり〜。せっかく・・・」

といいながら、優子さんが近づいてきた。いや近づきすぎだ。・・・ボクのネクタイ

を触る目が据わってる。さっきまでの涼しい顔とぜんぜん違うな、と、思わず彼女の

顔に見入りかけて、我に返った。

「と、とにかく、そのネコポーズ、エロフィギュアじゃあるまいし、やめてください
よ。」

変な気になったらどうしてくれるんですか・・・とは言わなかったけれど。

うろたえているうちに彼女はボクの首に両手を絡め、冷たい廊下の床板に投げ出して

いたボクの両足の、限りなく付け根に近い部分に腰を下ろし、そのままボクの右肩に

頬を置いて寝息を立ててしまった。

(うわっ おいおい、マジかよ〜)

温ったかい・・・でも、とんでもない格好。誰かにみられたら大変だ。とくに 田中 に

見つかったらミクシィのコミュで何を言われるかわからない。

「優子さん、起きてよぉ 重いよ〜」


あっちに気づかれないように控えめに声を掛けながら、ボクは彼女に言ったら

跳び蹴りされそうなフラチな妄想をした。ほんの一瞬だけ。いや5秒ぐらいか。

 

「んん・・・・ 」

彼女が顔を上げ、長い前髪をかき上げた。そして、また両手をボクの首に回し直し、

顔の向きを変えた。首に彼女の息と唇の柔らかい感触を感じた。ここまできたら

役得 だ、よし、もう少しこのままでいよう。きっと酔いが覚めたら、さっきまでのような

お姉さん顔で「ふん。」って言われちゃうに決まっている。こんないいことは二度と

無いに違いない。

 

 

あ・・・? 

優子さん、起きてる・・・

彼女、ボクの首筋に今、キスをした・・・?

彼女の唇が触れるたびにボクの体に電気が走る。びっくりして飛び退きそうになりな

がら、飛び退いたら損だと思い直したりした。気持ちいい。神経を集中するようにボ

クは目を閉じた。

(あわよくば・・・あわよくば・・・いやいやいやいや・・・・それは、ないよなぁ)

 

ボクは思わず彼女を抱きしめそうになった。妄想が止めどなくふくらみ、爆発しそうだ。

「ねぇ、もっと気持ちいいことしてほしい、って思ったでしょ」

耳元で彼女が小さい声で言った。見透かされている。しかも熱い、息が。

「え! あ、いや、あの、その・・・」

「来る? 部屋に。」

「え・・・っと・・・」

「来る? 部屋に。」

ドッキリカメラか? どうよ、これ。なぁ、田中ぁ〜・・・  

  

続く。

 

次のお話

 

 

 

 

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